2013.03.31
新しい仕事が始まり2ヶ月が過ぎた
会社の裏手には大きな川が流れている
午前の労働を終えてお昼に
川まで歩いてぼんやり川辺で過ごす時間が好きだ
海鳥がたくさん飛んでいる日や
潮のかおりが強い日
鳥がまったく飛んでいない日
ぼんやりのなかで触れる変化は
僕に何も求めて来ないから寛容だ
足元を海鳥の子どもが鳴きながらうろうろと
落ち着きなく歩いている日があった
何かを探しているようにも
ただ無邪気に遊んでいるようにも感じられた
野良猫も雀もそうだけれど他の生命とは
それぞれの距離感がある
これ以上近寄ってこない他の生命との距離に
どこか潔くも哀しき境界を感じる
でもその境界は可視的なものなのだと
ちいさいころから信じている
他の生命を認知すること
他の生命の振動を感じることで
その可視的な境界を越えて交ざり合ったり
溶け合ったりしているのだと信じている
ぼんやりのなかで触れる変化に
いつもそんなことを感じている
2013.03.07
さらさらとした光がさす朝だった
駅までの坂道を下っていると
小綺麗な格好をした女性が
坂の下からこちらに向かって手を振っていた
女性に近づくにつれその手の振り方は
だんだんと大胆な程に大きく揺れていた
知り合いなのだろうかと思いを巡らせていると
女性の側に黄色いタクシーが止まり
そのまま去っていった
手を振り返さなくてよいときもある
さらさらとした光が拡がる昼だった
街を歩く人が通勤鞄のように右手に
如雨露を持ってすれ違っては
僕を追い抜いていった
各ご家庭の軒下に置いてある花や
無造作に道に生い茂っている植物に
それぞれの如雨露でそれぞれの水を注いでいた
老若男女問わず色とりどりの如雨露を持って
各ご家庭の軒下に置いてある花や
無造作に道に生い茂っている植物に
それぞれの水を注いでいた
愛情の注ぎ方は人それぞれだ
さらさらとした光が滲む夜だった
一日の労働が終わり川岸に出てみると
川に向かって叫んでいる男性が居た
思いのほか川は海よりも広くないため
向こう岸にあるビルに叫び声が跳ね返って
その男性にすべて返ってきた
すべての行いや言葉は自分に還ってくる
「さらさらとした光が照らしたものについて」