ことばのまえ Sou NAKAYAMA

Sou NAKAYAMA

  • 2016.10.07

    20161007

    明け方の空気には色がついている

    ベランダに干してある洗濯物も
    私の身体も透明な水色へ染まっていく

    太陽が現れるまでのこの時間に
    一日分の大気を吸い一日分の大気を吐く

    それから神宮の林に出た

    ゆったりとビニール傘を右に左に
    揺さぶる人たちに出会った

    雨は降っていなかったけれど
    開かれた色とりどりのビニール傘には
    黒いマジックで数字や
    「チケットください」等と書かれていた

    四谷方面へ向かう交差点で
    信号を待っていると色とりどりの
    ビニール傘が海月のように
    泳ぎ出して空へ向かっていった

    空にはさっきまで在ったひとつひとつの
    白い雲が交差点の頭上で
    おおきな塊となり乾いたアスファルトに
    ぽつりぽつりと大きな染みをつくっていった

    ビニール傘を持った人たちが
    雨乞いの儀式をしていたのか

    白い雲が雨を降らせたのか
    どちらが先なのかよくわからなかった

    林の中で耳を澄ますと
    樫の木の呼吸が聞こえる

    針葉樹はどうしてあんなにもまっすぐ
    上を向いて生を為せるのだろう

    多分生きること以外の意志は
    彼らにはないのかもしれない

    未来も過去も
    彼らにはないのかもしれない

    だから私は彼らを
    見上げるのかもしれない

    林を抜けると
    東の方から赤い光が空に滲んで
    私の猫背な背中はまっすぐになっていた

    おはようございます
    雨が上がりましたね

    いつも同じ時間に散歩している
    顔見知りの老人が
    すれ違うときに声をかけてきた

    おはようございます
    雨上がりましたね