ことばのまえ Sou NAKAYAMA

Sou NAKAYAMA

  • 東西線

    2016.09.12

    20160912

    労働により疲れ果て
    地下鉄のふわふわとしたソファに
    身体を全て預けていると茅場町辺りから
    黒いレオタードを着た人たちが
    おおぜい乗り込んできた

    状況が呑め込めないまま日本橋を通過し
    大手町に到着する頃には僕以外の8割くらいの人たちは
    すべてレオダード姿だった

    竹橋へ到着するころに
    少し冷静になり始めた僕は
    ひとつの現象を発見した

    レオタード姿のOLや青年やおっさんやら
    淑女やら老人はそれぞれ腰に色とりどりの太い
    帯をぶら下げていて
    地下鉄の路線図等が映る電光掲示板には
    色の説明が書いてあった

    僕の目の前でつり革につかまっている
    おっさんは黄色い帯だったのだが
    掲示板によると
    「黄色 ひょうきんもの 実は繊細」
    などと電光掲示板には書かれてあった

    たとえ姿はレオダードでも皆
    鞄やリュックなどを背負っていて
    スマホをいじったり眠っていたり
    本を読んだりだった

    いつもの通勤風景と変わらない温度感に
    僕は戸惑わされつつもOLさんたちは
    ピンクや紫色が多いんだなとか思ったりしていた

    九段下を通り過ぎるころ
    自分だけがレオタードではないことに
    違和感を覚え始め
    急に居心地が悪くなってしまった

    それは自分も調和するために
    同じ姿にならなくてはいけないのかという
    後天的に植え付けられた反射的な脳の働きにより
    すべての考えがそこに焦点してしまったからだ

    googleで レオタード 最安値 東京
    帯び 紺 意味 等と
    検索していると飯田橋を通り過ぎた

    いよいよ車内は僕以外すべての人たちが
    色とりどりの帯を纏うレオタード姿になった

    「白 清潔 資生堂 百合 神社 仏閣など」

    神楽坂に到着すると
    白い着物姿のおっさんたちが入って来て
    厳かな神楽が始まった

    レオタード姿の合間をぬって
    神楽が混雑した車内を通り過ぎる度
    ひとりひとりの帯とレオタードははするすると
    解けてきれいにつり革にかかりはじめた

    解けたレオタードたちは
    この上なく無邪気で安らいだ顔になり

    早稲田に着く頃には皆
    お風呂上がりの子どものように
    血色よい顔立ちをし
    普段の服装に戻っていた