ことばのまえ Sou NAKAYAMA

Sou NAKAYAMA

  • ある一日

    2013.03.07

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    さらさらとした光がさす朝だった

    駅までの坂道を下っていると
    小綺麗な格好をした女性が
    坂の下からこちらに向かって手を振っていた

    女性に近づくにつれその手の振り方は
    だんだんと大胆な程に大きく揺れていた

    知り合いなのだろうかと思いを巡らせていると
    女性の側に黄色いタクシーが止まり
    そのまま去っていった

     

    手を振り返さなくてよいときもある

     

    さらさらとした光が拡がる昼だった

    街を歩く人が通勤鞄のように右手に
    如雨露を持ってすれ違っては
    僕を追い抜いていった

    各ご家庭の軒下に置いてある花や
    無造作に道に生い茂っている植物に
    それぞれの如雨露でそれぞれの水を注いでいた

    老若男女問わず色とりどりの如雨露を持って
    各ご家庭の軒下に置いてある花や
    無造作に道に生い茂っている植物に
    それぞれの水を注いでいた

     

    愛情の注ぎ方は人それぞれだ

     

    さらさらとした光が滲む夜だった

    一日の労働が終わり川岸に出てみると
    川に向かって叫んでいる男性が居た

    思いのほか川は海よりも広くないため
    向こう岸にあるビルに叫び声が跳ね返って
    その男性にすべて返ってきた

     

    すべての行いや言葉は自分に還ってくる

     

     

    「さらさらとした光が照らしたものについて」

  • 記録

    2013.02.25

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    不要になったエゴを回収しますと
    僕の周りを何台もの
    不要品回収業者が巡った日

    おおきな地震を予測する会社の
    ラジオから警報がなった

    地震には慣れたけれど
    警報には慣れない
    だから警報というのだろう

    欲望は期待を生み
    恐れを生む

    恐れがあるところには
    期待があり欲望がある

    なにかを期待をすることは
    僕は好きだけれどその根源が欲望だとしたら
    少し考えてしまうけれど

    ただ空気を吸い
    ただ生を為している

    そんな日々を送っている

    何も期待はしていない
    でも恐れはいつになっても消えない

    消えないことに
    恐れを反射的に覚えているのかもしれない

    ただ生きている
    社会的な役割を担いながら
    ただ何も考えず生きている

    そんな日々も嫌いではないな

     

     

  • 2013年

    2013.01.01

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    2012年は1月の写真展から始まり
    12月の個展に至るまで
    様々な催しを行わせていただきました

    催す行為には常にたくさんの方々に
    支えられ様々な無理なことを
    受け容れて下さりました

    僕ひとりでは何も為し得ませんでした

    写真展を開かせて頂いた学下コーヒーの星野さん、陽子さん
    webを作成して下さったgrafの置田くん、ルイさん

    詩集の装丁から個展の演出まで携わってくださったnnnの
    とおるさん、神村さん、りょうこさん、樹さん

    森岡書店での個展をサポートして下さった森岡さん
    colissimoでの個展をサポートして下さった
    高橋さん、しょうこさん、前中さん

    それ以外でも
    身近なところで支えてくださったすべての方々に
    感謝申し上げます

    2013年は特にこれといった意気込みはございませんが
    粛々と創作をしていきたいと思っております

    すべての方々に感謝申し上げます

    ありがとうございます

    中山聡

     

    2013 正月

  • 手洗い

    2012.11.18

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    朝の空気や陽射しがどこか
    お正月のようだった

    来週から始まる個展のことで
    頭が一杯になり

    無垢なものに触れるために
    動物園へ出かけた

    山羊や羊の背中に触れた
    けれど彼らはご飯に夢中だった

    動物に触れた子供たちへ
    手を洗うよう促す大人たち

    無垢なものに触れた子供たちは
    大人たちの言葉を信じて
    無垢なものを洗い落とす

    家族毎に繰り返される
    その儀式のような手洗いという行為を
    ぼんやり眺めていた

  • 記録

    2012.10.29

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    雨は巡るものだとしたら
    空間だけではなく時空をも
    巡るものだとしたら
    きっと今夜降る雨とはどこかで
    触れあったことがあるように思えた

    ひとりで静かに創作できる空間が欲しい
    繊細なものを掬いとるときには
    どうしても静寂と自分が同調できないと
    乱れてしまう

    他意が飛び交う空間では乱れてしまう

  • 「記憶を嗅いで海へ還る犬の話」

    2012.09.03

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    羊の群れを連れて
    スーツ姿の男が日比谷線に乗り込んできた

    帰宅で混雑する地下鉄の車内で
    羊たちは大人しく群れをなし恵比寿方面へ向かった

    群れから外れた羊はスーツ姿の羊飼いに寄り添う犬に
    噛まれて痛い思いをしてしまうので

    六本木駅で停車しているときも誘惑に負けることもなく
    吊り広告を静かに眺めたりして大人しく群れをなした

    広尾駅で数頭の羊がウールを着飾った
    高所得者たちに買われて降りて行き
    売れ残ってざわついた羊たちは犬に噛まれた

    犬は羊を噛むことを嫌った
    でも羊を噛まないとスーツ姿の羊飼いに叱られるので
    たとえ地下鉄の車内でも自分の役割を全うした

    スーツ姿の男は中目黒駅で降り羊と犬を
    ガードレールに駐輪している一台一台の自転車に結び
    高所得者から得たお金でお洒落な会話が飛び交う
    お洒落なカフェでお洒落なものを飲むことにした

    男を待っていると土砂降りの雨が降ってきた
    犬は瞬く間に水位が上昇した目黒川に吞み込まれ
    結ばれた自転車のタイヤにつかまりぷかぷかと浮かびながら
    むかし住んでいた美しい島の集落を思い出していた

    おおきな津波に襲われたその島はもう
    この世界のどこにもなかったけれど犬は
    島を流れる気持ちのいい風や空から落ちる透明な水や
    海のなかに沈み途切れた生き物たちの生命の記憶を川のなかに嗅いだ

    お洒落なものを飲み干し酔い潰れた男が終電を逃す頃
    整然と群れをなした羊が一匹また一匹と
    夢の中へ消えて行きガードレールから解けた犬は

    溢れた川の記憶を辿り
    深い海へと沈んだ生命の源へ還っていった

     

  • 「アッシジ或いは」

    2012.08.12

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    夕立を待っていた
    夕立は来なかった

    ここのところずっと本を読む行為から
    離れていた

    その時間を取り戻すかのように
    夏休みの間は本ばかり読んでいる

    物語が終わり星の話が始まり
    哲学者が幸福について語りだし
    海に囲まれた国で生まれた
    神話の体系の中へ入っていく

    本と休息の時間が無限にあるのなら
    どのくらいこの行為を繰り返すのだろうか

    途中で飽きて散歩に出かけるのかもしれない
    途中で疲れて眠ってしまうのかもしれない
    途中で誰かと話したくて誰かに会いにいくのかもしれない

     

     

  • 「雨」

    2012.07.23

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    雨に濡れて街灯が反射する道を遠回りして帰ってきた
    霧雨になったり雨粒が落ちる速度がまばらな
    ここ2日間の雨は生きているようでどこか落ち着いた

    失うことから得ることについて考えている
    得ることから失うことについて考えている

    でも失うも得るも何もないのかもしれない
    所有という概念はすべて幻想のようなものなのかもしれない

    ただ反射的に何かを失ったときはトンネルの先にちいさく光る
    希望のような出口を探したりもする

    出口に辿り着き日常が始まり景色に見慣れ飽和状態になると
    自分が歩んでいる道を疑ってしまうこともある

    そういうときは眠るのが一番なのかもしれない

     

  • 「録音」

    2012.07.09

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    今朝平日よりも空いている地下鉄の車内で
    スペイン語かポルトガル語で話す観光客と
    思われる家族と長細い椅子で隣り合った

    僕にとって見慣れた一駅一駅も
    遠いところから来た彼らにとっては
    驚きと楽しさの連続でその雰囲気が
    無機質な空間を少しだけ明るくさせてくれていた

    昨年会社を休職しているときに
    広尾図書館に通っている時期があった

    ちょうど夏を迎える時期から秋の終わりまで
    朝から夜まで本を読んだり
    何かをメモしたり目の前の有栖川公園で
    緑を眺めていたりしていた

    会社に向かう途中不意な誤作動で
    I phoneから蝉の鳴き声や子どもたちが遊ぶ声や
    カラスが鳴いている音が流れはじめた

    昨年何気なく録音した有栖川公園の音だった
    60秒ほどの世界は一瞬にそのときの
    空気や感情を蘇らせてくれた

    今朝の地下鉄の車内の音も録音したくなったけれど
    気がついたらもう降りる駅だった

     

  • 「できれば」

    2012.07.06

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    できれば遠くへ行きたいと思った
    帰り道の夜空には雲が疎らで
    いつものように風が通り過ぎる

    2つ哀しみに触れた
    3つ矛盾を受け容れた

    そんな日の帰り道の足取りはどこか重くて
    できれば
    遠くへ行きたいと思った